何笑ってんだかビーナスは二色刷り
小池正博 編著『はじめまして現代川柳』
ビーナスとはなすびのことだ。
そう気づいたとき道が開けた。なすびをひっくり返してびーなす。俗に言う「業界読み」だ。むろんビーナスがなすびだったところで句の理解が劇的に進むわけではない。だが、すでに道は開けた。錯覚ではない。幻覚だ。くっきり見えている。ならば先へ進もう。え、暗すぎる。街灯ひとつ無い。がしゃん。なんの音。怖い。何を笑っているんだ。ていうかそもそもなにがどう二色刷りなんだ。わからない。はじめまして現代わからなさ。しかし、現代川柳の「読み」が作者の意図を解き明かすテストではなくその句を踏み切り台にイメージの跳躍を試みる狂気のイニシエーションなのだとしたら、「ビーナス=なすび」というこじつけは、わたしにとってまさしく跳躍そのものだった。誤跳躍。着地点の見えないやぶれかぶれのジャンプ。だから、堂々と胸を張って宣言できることはなにもない。口の端をだらしなく弛緩させ、へらへらと笑い顔で言うしかない。何笑ってんだか。へらへら。ビーナスは二色刷りなのだ。