SENRYU REVIEW

それいゆるうぺ

「蜂」会員による一句評を掲載しています。毎日更新。

基礎知識だけでのたうち回ろうよ

榊陽子「ひと様の」(「Picnic」No.10)

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 基礎はどこまでも侮られる。みんな知ってて当然だから。ほんとに? なのに立ち戻ることはないとも思われている感じがある。その必要さえないところだと。そんな軽んじた基礎の上に応用を積んだつもりになって、空っぽのままみんな飛んでるつもりをやってる。いい気なもんじゃん。飛ぶどころか、同じ狭い景色の中走ってるばっかなのに。よく見ろよ、おまえの空、既出の空の書き割りだよ。
 それならこっちのがずっと潔い。のたうち回る。辞書を引く。「苦しみもがいて転げまわる」(松村明編『大辞林 第二版』(三省堂))。できそう。そもそも人間の図体に羽なんか役に立たない。むしろ寝るのに邪魔なくらい、ってたぶんこの句の主体も思ってる。そのくらいこの句の「だけ」には覚悟が決まっている。だれかの大きな手のひらの上でぶんぶん飛んでる真似してもらうお下がり光なんかもううんざり。芥子粒でいいから誰にも見つからなかった光を。誰もが見捨てた光を。
 そのためには踊るんじゃ足りない、のたうち回ろう。「苦しみもがいて」は標準装備。からだの知覚/自覚から離れず、頭とからだ、どっちもを投げ出すようにやる。だいじょうぶ。「のたうち回ろうよ」ってお誘いで終わってるでしょ。ひとりじゃない。こういうお誘い——醒め切った現状認識から穿ちを通すことで、こちらのわだかまりを突き抜けて届くお誘いの仕方が、榊さんはほんとうに、かなしくなるほど、うまい。その速さ。その強さ。いつも心に握ってる、おれにとっての芥子粒みたいな光。