カマツキリよ驚くな俺の顔だ
根岸川柳『考える葦』(根岸川柳作品集刊行会、1959年)
初句「カマツキリよ」の時点では、そう呼びかけた側である語り手の視点に依って「カマツキリ」を見ていたはずなのだが、結句「俺の顔だ」に至るといつの間にか、呼びかけられた側である「カマツキリ」の視点に依って、語り手の「顔」を見させられている。
読者に、爆速な視点の切り替わりを強いる話体川柳。
そもそも、カマキリに対して「カマツキリよ」と促音で呼びかけている時点で、若干の驚きがある。促音発音のためには「カマキリ」の「マ」の音を通常よりも短く発音し、瞬間グッと息を止めて「ッキリよ」へと声を解放する必要がある。そんな緊張感のある呼びかけをされた「カマツキリ」側としては、萎縮してしまっても仕方がない。
にもかかわらず、語り手は「驚くな」と言う。そして続ける「俺の顔だ」。……いや、流石に無理があるだろう。取り乱したカマツキリや俺たちから顔を裂かれてもアンタ、文句は言えますまい。