SENRYU REVIEW

それいゆるうぺ

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押し花の水泳選手たちあがる

我妻俊樹『金星と土星』(note)


驚きと希望に満ちている、と読んだ瞬間に感じた句だ。提示される言葉ひとつひとつにいちいちはっとする。最初に現れるのが「押し花」で、わたしが押し花と聞いてイメージするのはパンジーだから、あの可愛いおじさんみたいな、こまっしゃくれた顔のように見えなくもないちびこい押し花が出てくる。愛くるしいし、ちょっと困っているような感じもする、儚い花の押し花だ。と思ったら「水泳選手」?押し花からの水泳選手はあまりにも遠すぎる。
だって押し花ですよ。「水泳」も「選手」も押し花界の彼等の概念には存在しないだろう。水なんて一滴も含まれない、もはや生ではなく完全に死の世界に見える。よく考えたら押し花とは、人間には真似できない芸当をしているのではないか。水分を残らず吸水された上に、重しを乗せられて花びらも葉もめっぽう開かれて鑑賞されるために生き物として造り変えられる。そんなことされて鑑賞に耐えうる人間は間違いなくいないのに、花達はそれをやってのける。それに到達した押し花が、水泳選手になったのだ。言葉だけ捉えると飛躍しすぎのような気もするけれど、あの押し花ならば震えるくらいの魂で水泳選手にもなれるような気がする。
そして最後にさらっと「たちあがる」と締めくくられる。人も押し花の水泳選手も、まずはたちあがるのだ。