SENRYU REVIEW

それいゆるうぺ

「蜂」会員による一句評を掲載しています。毎日更新。

公園の少女の話全部嘘

坂東乃理子『人魚の絵』(私家版、2018年)

嘘も方便というのは本当で、ほとんどの人はちいさく嘘を使いこなして暮らしている。
最近は政治に関わる人たちの言うことがほとんど嘘になってきて、嘘をつくことが当たり前になってしまった。どうせなら面白い嘘で楽しませてほしいけれど、今の所全然面白くない。

掲句の少女の嘘は面白いのだろうか。
大人が聞けばいかにも「嘘らしい」嘘話なのかもしれない。
けれど公園という場所は少女にとっては身近な世間であろうし、その世界が狭ければ狭いほど、嘘は切実なものになる。
嘘の分量が少しではなく「全部」なのだから命がけと言ってもいい。
そしてこの嘘を聞いているのも、話しているのも、同時に作者自身であるだろう。

坂東乃理子には次のような句もある。

  遠ざかるものよ わたくしは縮む 坂東乃理子

 この句はねじれた遠近法で書かれている。
遠ざかるあなたから見たわたくしはちいさく縮んでゆく。距離が離れれば、実際にはお互いが共にちいさく見えるのだけれど「わたくしは」と限定することによって、こちら側(自分)のみが世界から消滅してしまうかのような心許なさが迫ってくる。

「遠ざかるものよ」と一応呼びかけてはいるものの戻ってきてほしいようでもない。
そして遠ざかるものは人間とは限らない。
事象をも含む有象無象を指している。あるいは遠ざかるものは鏡やカメラのレンズに映る作者自身かもしれない。

わたしはわたしから離れることができないけれど、川柳の中では自在に伸び縮みできる。

心許なさは、川柳の源のひとつだと思う。