調律は飛鳥時代にすみました
小池正博『水牛の余波』
調律とは、演奏前に楽器の音程を適切な状態に整えること。ギターやヴァイオリンのような弦楽器なら自分でその都度、ピアノのような大きな楽器なら、専門の調律師を呼んで、半年~一年に一度の頻度で調整してもらう。肝心なのは、調律は音程が狂ってきたら何度でも繰り返さなければいけない作業であるという点だ。例えば盲腸を取るように、一度やってしまえばそれでおしまい、といった性質のものではない。
以前、掲句について「言葉によって一瞬のうちにタイムスリップさせられる句」と紹介したことがあった。しかし、句の主眼は「タイムスリップ」ではなく、句の指し示す時空が「存在しない」ことに価値があるのではないか。千年以上も前に調律をしたきり一度もしていないなら、それは時間が止まっているのだ。
川柳は囁く。わたしたちが立つ地面が、実は巨大な空集合にわたされた一本の細い綱に過ぎないのだと。